海のカテドラル~百人会議の間   

『海のカテドラル』~巷で話題のこの本、もう読まれた方もいらっしゃるだろうか。14世紀のバルセロナを舞台にした歴史エンターテイメント小説は、主人公が、非道、理不尽、残酷極まりない社会そして運命に翻弄されつつも、たくましく力強く生きるストーリー。展開が速く、思わず先へ先へと読み進んでしまう。バルセロナ通の友人が「これ、いけますよ」と薦めてくれたのもうなずける。
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物語のまだ始まりの部分で、主人公の義理の叔父が「百人会議」のメンバーに任命されるのを今か、今かと待っている記述がある。繁栄を極めた中世バルセロナでは、名誉市民に商人、職人階級を加えた「百人会議」が成立していた。1374年開催の第一回会議から会場として使用されてきたのが、市庁舎にある「百人会議の間」である。

話は20世紀に飛ぶ。1985年6月、その由緒ある「百人会議の間」で、私は歌った。師マヌエル・ガルシア・モランテ編曲による「日本民謡集」出版記念特別演奏会が開かれたのだ。私はこの曲集の歌詞・解説の西訳を担当していた。日本語をひと文字づつ手書きし(パソコンはおろかワープロもない時代だった)、表紙の題字は父に依頼。無事完成、出版にこぎ着け、最後の仕上げが、この演奏会というわけだった。
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バルセロナ市主催「百人会議の間」で開かれる演奏会、というのは、普通の出来事ではないようだった。師の準備にも熱が入り、事情を知った人からは「素晴らしい。おめでとうございます」と声をかけられた。当日の招待客は皆、正装。私には、師の奥様が、亡き母上から受け継いだという大切な美しいレースのボレロを着せてくれた。開会の辞、市のお偉方の長い祝辞、師の謝辞、その後、おもむろに演奏。「百人会議の間」に日本の歌が響き渡った。

師は、第20回リサイタルのために寄せてくれたコメントの中でも、この想い出に触れている。

「海のカテドラル」を読んでいると、モンジュイックの丘から見た地中海が目に浮かぶ。ゴシック地区の喧騒が蘇る。誇り高き自由都市バルセロナ。「百人会議の間」での演奏会は、私が考える以上に、名誉ある晴れ舞台だったのかもしれない。
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by Megumi_Tani | 2010-07-11 08:24 | 本の窓 | Comments(0)

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