司馬遼太郎著『南蛮のみち Ⅰ・Ⅱ』
2015年 05月 22日
さて、そのずい分前に読んだ『南蛮のみち Ⅰ・Ⅱ』を、もう一度読み直してみた。フランシスコ・ザビエルの心の軌跡を追って、バスク地方を旅する内容だ。バスクからマドリードへ、そしてポルトガルへと旅は続く。独特の語り口の文章だが、何となくノリが悪い。何故か、司馬遼太郎の楽しくなさそうな?気配が伝わってくる。
こちらも何となくノリが悪いまま読むうちに、きっと司馬遼太郎は、バスクが、マドリードが、あえて言えばスペインが、肌に合わなかったのだ、と、気がついた。スペインは独自の強烈な個性をもった国だ。惚れる者はとことん惚れこむが、中には、「ああいう国はちょっと…」と仰る方もいる。ザビエルに多大な影響を与えたロヨラも、彼との出会いから極端な変貌を遂げてゆくザビエルも、かなり強烈な、今風に言えば“濃い”人間だ。彼らのほの暗い色濃さに、司馬遼太郎は、共感ではなく、違和感を覚えたのではないだろうか?
その証拠に、というわけでもないが、旅がポルトガルに入ったところから急に筆致が変わる。風光明媚な景色を愛で、街並みを楽しみ、詩やファドを味わい、人々の気質に愛着を感じている。「ポルトガルはいいなぁ」という司馬遼太郎の声が聞こえそう…と思いつつ読んでいたら、あらら!「人間がおだやかで秩序的であり、スペイン的な激情は見られない(本文より)」とまで書かれている。やはり人間、相性というものがあるらしい。しかし、それでも書ける。やっぱり巨匠だ。
ザビエルに関しては、こんな文章も。
『ザビエルの生地、パンプローナにみたスペインと日本のつながり』
執筆者の細田晴子氏は、以前このブログでご紹介した『カザルスと国際政治』の著者。
司馬遼太郎の数々の名著の中で、ちょっと隠れた一冊はこちら。
人間・空海の背中をひたすら追っています。