『君の上にはただ花ばかり』
2015年 07月 02日
内なる世界を無限に旅する音楽。繊細で緻密な小宇宙。歌曲集『夢のたたかい』は、そんなモンポウの世界を、歌とピアノでこの世に実現している。なかでも第一曲『君の上にはただ花ばかり』は秀逸だ。どこまでも慎ましやかな旋律、どこまでも素直な音の流れ、美しく透明な音宇宙に溢れる言葉にならぬ魂の声…。歌詞はカタルーニャ語。モンポウの友人である詩人、ジャネスが、天に召された恋人を偲び、「君の胸の上にそっと横たわる百合の花になれたなら…」と詠っている。カタルーニャ語による歌曲の最高峰というのみならず、スペイン歌曲の最高傑作のひとつだ。
スペイン歌曲に出会った当初は、カタルーニャ語の読み方が分からず歌えなかった。バルセロナで、勇気を出して、ガルシア・モランテ先生に「『君の上にはただ花ばかり』をレッスンしてください」と言った時のドキドキを思い出す。マエストロ・モンポウご本人の前で『君の上にはただ花ばかり』を歌わせていただいたことは、まさに、「夢のたたかい」ならぬ「夢の実現」だった。
『君の上にはただ花ばかり』を初めて聴いて、これがスペイン歌曲だと思う人はおそらくいないだろう。「オーレ!」や「ビバ!ビバ!」だけがスペインの歌ではない。スペイン歌曲には実に様々な顔がある。「毎日メディアカフェ」では、そのあたりをざっくばらんにお話したい。