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「夢のたたかい」   

「夢のたたかい」は、スペイン歌曲のなかで最も美しい作品のひとつです。言葉はカタルーニャ語。楽譜にはスペイン語、フランス語に訳された歌詞も載っていますが、これは馴染みません。シンプルで美しいピアノの調べにのせて「Damunt de tu~」と第一曲めが始まるその時に、モンポウの世界がくっきりと立ち上がります。詩は、詩人ジャネスが、若くしてこの世を去った恋人に捧げたものです。モンポウとジャネスは親友でした。

まもなく留学が終わろうという頃、モンポウのお宅を訪ね、マエストロご本人と奥様カルメン・ブラーボ女史の前で「夢のたたかい」を歌わせていただきました。ゆっくりと手をあげて「Muy bien」と言ってくださったフェデリコ・モンポウ。まさに、夢のたたかいならぬ、夢の記憶です。

モンポウの音楽は、熱を秘めて内奥に向かい、その深みを求め、時にこの世を離れて、少し不安げに、どこまでもどこまでも漂います。透明な音、儚く不条理に重なり合う和音…。その遠い彼方にあるのは、果てしない静寂、ひそやかな孤独、かすかに響きあう魂の声…。
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by Megumi_Tani | 2013-04-27 00:12 | スペイン歌曲 | Comments(2)

モンポウの歌曲   

プログラムノート第2回は、フェデリコ・モンポウの歌曲についてご紹介します。

スペイン歌曲と出合ってまだ間もない頃、モンポウ作曲「夢のたたかい」という作品を、ビクトリア・デ・ロス・アンへレスのLPレコード(!)で初めて聴きました。スペインには、こんなにも繊細で美しい歌曲があるんだ…。エル・ビートやガルシア・ロルカ採譜による古謡「18世紀のセビリャーナス」しか知らなかった私には、新鮮な驚きでした。レコード店を片っ端から探してみると、モンセラート・カバリェやホセ・カレラスのLPはあるけれど、テレサ・ベルガンサのLPはない。しかも歌詞カードを見ると、綴り方が何だかスペイン語と違っている。カタカナ読みできるはずの歌詞が読めない…。なぜ?…。当時の私は、カタルーニャについて、カタルーニャ語について、何も知らなかったのです。手がかりを探そうにも、肝腎の楽譜が手に入りませんでした。のちにバルセロナへ渡り、老舗の楽譜店Casa de Beethovenでドキドキしながら「“Combat del somni”の楽譜をください」と言った時のこと、先生におそるおそるこの曲のレッスンをお願いしたときのことを懐かしく思い出します。

ピアニストとしての腕前を有していたモンポウは、「歌と踊り」「内なる印象」など、多くのピアノ作品を残しました。一方で、歌曲の分野にも「夢のたたかい」のほか、「魂の歌」「牧歌」「川面に雨がふりしきる」「シル河の砂金採りの女」など、独自の印象深い作品があります。私のCD「魅惑のスペイン」に収録した「雪」は大好きな作品ですが、日本ではほとんど演奏される機会がありません。触れればこわれてしまいそうな儚さ、にぶく透明な世界。薄曇りの冬の空から、はらはらと舞い落ちる雪のかけらが見えるようです…。

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by Megumi_Tani | 2013-04-25 12:08 | スペイン歌曲 | Comments(2)

豊穣のカタルーニャ   

プログラムノート第一回は、E.Toldráについてご紹介します。

バルセロナ音楽界の重鎮エドゥアルト・トルドラですが、彼の名をご存知の方は少ないのではないでしょうか?幼い頃からヴァイオリンを学び、若くして弦楽四重奏団の第一ヴァイオリンを務め、その後、バルセロナ市立管弦楽団の常任指揮者として大活躍したトルドラは、作曲家としても弦楽合奏曲、歌劇、歌曲などの分野に多くの作品を残しています。
私が学んだConservatorio Municipal de Música de Barcelona(バルセロナ市立高等音楽院)の音楽ホールは「Auditorio Eduard Toldrà」~エドゥアルト・トルドラホールと名付けられていました。

トルドラの歌曲は柔らかく、優しく、美しく、およそ日本でイメージされる「スペイン」とはかけ離れています。エッ?これがスペイン歌曲?と初めて聴く方は驚かれるでしょう。歌詞は、そのほとんどがカタルーニャ語で書かれています。ア・イ・ウ・エ・オの五つの母音で我々日本人にも読みやすいカスティーリャ語と違って、カタルーニャ語はスペルを見ただけでは読めません。エッ?カスティーリャ語って何?と疑問に思われた方、カスティーリャ語とは、いわゆるスペイン語のことです。カスティリャーノ地方(マドリードを中心とする)の言葉だからカスティーリャ語、カタルーニャ地方の言葉だからカタルーニャ語。実はこれは、スペインという国を理解する上で、極めて重要なポイントです。バルセロナはカタルーニャ地方の中心。したがって今回の「愛しのバルセロナ」には、カタルーニャ語の歌がたくさん登場します。トルドラにはカスティーリャ語の歌曲作品もありますが、音楽の陰影、抒情性、独特の色彩感etc。私見ながら、すべてにおいて、カタルーニャ語作品の方が、その深さに勝るような気がします。

<五月>
花ひらく大地 魅惑の海 秘かな命の凱歌 輝く雨 そよ風の愛撫 よみがえる愛 甘い忘却 満月が囁く不幸の予感…
<海辺の緑のブドウ畑>
海辺の緑のブドウ畑よ はにかんで風にふるえる葉よ 黒紫色の実よ 金のつるよ お前とともに一日が始まり暮れていく いつまでも仲間でいようじゃないか 海辺の緑のブドウ畑よ

いかがでしょう?この豊かなイメージ、柔らかく鮮やかな色彩感…。豊饒の故郷カタルーニャへのトルドラの深い愛が伝わってきます。

この方が、Maestro Toldrá
「Vinyesへのamorを歌うんだよ」バルセロナの先生の言葉です。
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by Megumi_Tani | 2013-04-20 00:15 | スペイン歌曲 | Comments(10)

ご用心を!!   

今さらながら…ですが、今朝、我が家に、電話回線工事会社を名乗る男がやってきました。きちんとしたスーツ姿。ウチが契約している会社のマークが入ったパンフレットを見せて、契約内容を聞き、まことしやかに説明、そして工事を奨めます。何だか変…。断って、会社に問い合わせると、やはり!ニセモノでした!多発しているそうです。手口がものすごく巧妙で、中には実際に工事をしてしまい、困り果てている被害者もいるとか。
皆様、どうぞご用心ください。013.gif047.gif
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by Megumi_Tani | 2013-04-14 22:51 | エトセトラ | Comments(0)

Prólogo   

リサイタル本番まで1ヶ月半になりました。
練習、準備、諸々、これからが追い込みです。大変だけれど、楽しい時間♪♪
本番までの間、曲目について、少しずつブログでご紹介していきたいと思います。

今回初めてご来聴くださる方もいらっしゃるので、まず基本のキのご案内を!私はスペイン語とカタルーニャ語で歌います。リサイタル当日は、お配りするプログラムで歌詞大意をご紹介するのはもちろん、演奏の合間に、私が自分で曲の内容やエピソードをお話しします。歌って、しゃべって、また歌って、しゃべって…。多くの方がお察しくださる通り、これって実は、歌い手にとって、かなりハードな作業なのです。しかも私は、いざしゃべり出すと歌い手モードをすっかり忘れてしまうので…。でも、やはり皆様にいろんな角度から、そして少しでも身近にスペインの歌の魅力を感じていただきたいと願い、ずっと「おしゃべり付き」を続けてきました。今ではおしゃべり付き演奏会が増えましたが、私がリサイタルを始めた頃は、クラシックなのに何故しゃべる?と、結構ご批判をいただきました。でも、負けない私(笑)です。

歌のリサイタルは概ね四つのステージで構成されます。ひとつのステージで演奏されるのは、まぁ目安として五曲くらいでしょうか。演奏が続いている間、ジッと息をひそめ、耳に全神経を集中し、微動だにしない。そして、五曲すべての演奏が終わったところで、おもむろに拍手…これがクラシック鑑賞の伝統的マニュアルです。しかし、たとえば二曲目が素敵だったら、思わず拍手をしたくなる。三曲目が楽しければ、また拍手をしたくなる。でも、どうやら手を叩いてはいけないらしい…。何となく周りの様子をうかがい、モジモジ、ゴソゴソされるお客様…。そんな窮屈な垣根はさっさと取り払い、私のリサイタルでは、お気に召したらいつでも手拍子、足拍子を!とご案内しています。(さすがにまだ足拍子をなさった方はいらっしゃらない?)これも、最初の頃は、曲の合間に拍手とはけしからん、知性と教養の欠如!と、結構ご批判をいただきました。でも、負けない私(笑)です。

ただ今回は、秘かに悩ましい曲があります。モンポウ作曲『夢のたたかい』です。亡くなった恋人に想いを寄せる詞、最も繊細で美しいカタルーニャ歌曲かもしれません。どこからともなく始まり、どこへともなく消えていく。曲の切れ目があるような無いような…。これはモンポウ作品に多く見られる特徴ですが、『夢のたたかい』に関しては、曲の切れ目があるけど無い。つまり、「君の上にはただ花ばかり」「今宵おなじ風が」「君の気配は海のよう」この三曲が連作として柔らかく響き合い、淡い絵画のような世界を創りだしているのです。一曲めの終わりが二曲めにつながり、二曲めの終わりが三曲めを誘う…。ですから、拍手は無い方がいい。静かに、どこまでも静かに、三つの曲が微風のように漂い、流れていくのがいい。

というわけで、私も思いっ切りしとやかに歌ってみたいと思います。ブログをご覧になってお出かけの皆様、どうぞちょっぴり息をひそめて、カタルーニャの抒情をお楽しみくださいませ。

お客様のつぶやき…「パンフレットは陽光のバルセロナ。チケットは夜のバルセロナですね」
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by Megumi_Tani | 2013-04-13 00:33 | リサイタル | Comments(2)

『カタルーニャを知る事典』   

日本におけるカタルーニャ研究の第一人者、田澤耕先生の最新刊『カタルーニャと知る事典』が出ました。2013年3月15日付。
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そもそもカタルーニャとは何ぞや?というところから始まって、政治的・経済的位置付け、歴史、言語、建築、美術、音楽、文学、芸能、スポーツ、食べ物、そして、奇跡の都市バルセロナetc。カタルーニャ語の苦難の歴史、ガウディ―、カザルスらカタルーニャが生んだ偉大な芸術家たち、バルセロナ万博、バルサ、二つのバルセロナ・オリンピック、パ・アム・トゥマカット(トマト付きパン)、クレマ・カタラナ、ダノンヨーグルト、はたまた慶長遣欧使節、貞奴…。あらゆる角度からカタルーニャの姿、魅力を伝えてくれます。各章の終わりにある「ノート」が、また小気味よく、楽しい。バルセロナ・ファン必読の書!

外国語をカタカナで表記することは、悩ましい問題です。原音を尊重し、出来るだけ原音に近い表記で。これが大前提ですが、日本での表記の慣用もあり、なかなかひと筋縄にはいきません。一番分かりやすい例は、タレガ作曲「アルハンブラの想い出」でしょう。「Recuerdos de la Alhambra」これは原音ではアルハンブラではなくアランブラですが、日本でアランブラと言っても、ほぼ誰にも通じません。前回のリサイタルでこの曲をヴォカリーズで歌った際も、印刷物の校正段階で、「これって、あの有名なアルハンブラのことですよね?」と、チェックが入りました。カタルーニャ語に関しては、この問題がもっと大変です。たとえば、6月に歌う「モンセラートの聖母に捧げる祈り」という曲。修道院や黒いマリア像で有名なモンセラートですが、これはより原音に近く記せば、ムンサラット、となります。パンフレット作成に当たり、悩みに悩み、結局、日本で通じる?モンセラートと表記しました。『カタルーニャを知る事典』では、慣用も取り入れつつ、限りなく原音に近い表記が紹介されています。エンリケ・グラナドスのエンリケはアンリック、モンポウはムンポウ…etc。へぇ、こんなに違うんだ…と、たぶん驚かれる方も。まさに本の帯にある「スペインであってスペインでない!?」カタルーニャの奥深さを実感していただけると思います。

それにしても、リサイタル『愛しのバルセロナ』開催を前に、こんなご本が出るなんて嬉しいなぁ。
田澤耕先生、ありがとうございます!
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by Megumi_Tani | 2013-04-03 22:10 | 本の窓 | Comments(6)