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黄金世紀ののAve Maria   

音楽講座『Las Músicas de España~スペインの音楽』第二回目終了。連休中にもかかわらず熱心な受講生の皆さんが集まりました。

中世のスペイン。レコンキスタが進み、アルフォンソ6世がモサラベを禁止しても、キリスト教徒、モーロ人、ユダヤ人との密接な交流は脈々と続いていました。イベリアの地で生まれ、溶け合い、咲き乱れた異文化の華。ここにスペイン音楽独自の魅力のルーツのひとつがあります。

名高い「モンセラートの朱い本」に収められている曲のなかには、聖地巡礼に訪れた人々を楽しませるために歌い踊られた曲も含まれているとか。14世紀カタルーニャの修道院で、すでに今流行のオ・モ・テ・ナ・シが行われていたとは!

賢王アルフォンソX世が編纂した「聖母マリアの頌歌集」に収められた曲の不思議な美しさと優しさ。譜面を彩る細密画に登場する王様とその家来達の楽しげな様子…。黄金世紀の「王宮の歌曲集」には、実に400曲以上もの世俗歌曲が収められています。歌と楽器で生き生きと聖母を讃え、奇跡を語り、恋心を歌う。人生に音楽は欠かせません。今を生きて、歌って、踊って…。これもスペインの音楽の大いなる魅力です。

時のはざまで国を追われたセファルディーの人達の歌。この魂を強く突き動かす力は、どこから来るのでしょう。一度聴いたら決して忘れられない妖しい響き。「やられました」と、受講生の皆さんも、ため息…。国の勝手な事情で追い出されたスペイン系ユダヤ人。彼らとて、つい昨日まではスペインの人であり、彼らの音楽もスペインの音楽だったのです。やりきれない哀しみ、微笑みの陰の諦め、鋭い痛みを帯びた魂…。これも間違いなくスペイン音楽独自の魅力です。



黄金世紀、宗教的神秘主義における偉大な宗教音楽家ヴィクトリア。生涯を神に捧げ、世俗曲に手を染めず、ただ宗教曲のみを書き続けた彼の作品は、厳粛さの中に、極めて人間的な感動、狂気にも似た熱い高揚を秘めています。人間の苦悩に嘘をつかない。魂に余計な衣をまとわない。あるがままの姿で天に向かう。これも時代を超えた、スペイン音楽の魅力です。

こうして歴史をたどることで、少しずつ、少しずつ、「スペインの音楽」の姿がみえてきます。

ところで、ヴィクトリアが天に召されたのは1611年。その二年後の1613年、支倉常長率いる慶長遣欧使節団が宮城県・月の浦を出港し、1614年12月、マドリ―に到着しました。スペインで洗礼を受けた常長は、きっと大聖堂でヴィクトリアの曲を聴き、神に祈りを捧げたことでしょう。七年後に帰国してみると、国の事情は一変していました。キリスト教禁止令による棄教を求められた時、常長の心にどんな思いがよぎったのでしょう…。




第5回教養講座『Las Músicas de España』(スペインの音楽)
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by Megumi_Tani | 2013-10-16 00:42 | 講座/セミナー | Comments(0)

ありがとう!Domingo 再び   

プラシド・ドミンゴが来日している。日本スペイン文化 交流400周年にあたる今年、スペイン文化交流大使を務める彼は、第25回高松宮殿下記念 世界文化賞の音楽部門を受賞した。

2011年、東日本大震災の後、外国人演奏家の来日キャンセルが相次いだ。あの人も、この人もドタキャン。公演中止あるいは、言い訳っぽく?無期延期のアナウンスが続き、日本人として、えもいわれぬ孤独感を覚えた。東北の被災地からは想像を絶する映像やニュースが連日飛び込んで来る。東京でも頻繁に余震が起こり「地震酔い」などという言葉が流行していた。こんな時に音楽って何?歌い手に何が出来る?これまで考えたこともなかった根本的な問いが湧きあがり、私は精神的に立ち往生してしまった。歌など歌っている場合ではないのではないか、11月に開催予定のリサイタルも中止しよう、、、、。

そんななか、ドミンゴが「予定通り」来日したのだ。被災地へのメッセージを伝え、コンサートの最後に日本語で「ふるさと」を歌った。観客が総立ちになったあの場面をご記憶の方も多いと思う。あの人もこの人もそっぽを向いて逃げ出した中で、ドミンゴが堂々と大きく腕を広げ、日本人を温かく抱きしめてくれた、そんな気がした。  2011年4月11日のブログ『ありがとう!ドンミンゴ』

「歌い手は、歌う」悶々と苦しんでいた心に、このコンサートが答えを教えてくれた。あまりにもシンプルな答え。あまりにも当然の答え。でも自分一人では決して光を見いだせなかったと思う。心が決まり、私は猛然と秋のリサイタルの準備を開始した。大震災以前に組み終えていたプログラムをすべて無しにして、今の自分の心が納得するプログラムをゼロから組み直す。そして、「ふるさと」だ。スペイン人のドミンゴが歌ってくれたあの歌を、今、日本人の私が歌わずにどうする?スペイン歌曲コンサートの枠から外れても構わない。今年は会場の皆さんと一緒に「ふるさと」を歌うんだ!…。これまでとは異質の一種異様な緊張のなかで、準備の六カ月を駆け抜けた。『Recitalあれこれ』

ところで、私が初めてドミンゴに胸キュン(笑)したのは、この映画だった。セビリャのタバコ工場で働く魔性の女カルメン、彼女に運命を翻弄されるドン・ホセ。苦悩する若きホセをドミンゴがそれは見事に歌い、演じていた。カルメンを歌ったジュリア・ミゲネス・ジョンソンは、この一作で消えてしまった。あまりにも奔放すぎるカルメン?!ということで叩かれたらしい。
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そして、こちらは、ドミンゴ指揮!のCD『アランフェス協奏曲』
哀愁のアランフェスならぬ、木漏れ日光る爽やかな高原のアランフェスが心に浮かびます。
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by Megumi_Tani | 2013-10-13 13:23 | スペイン歌曲 | Comments(0)

『Brava! Victoria』~生きて歌って   

生徒さんのひとりが、モンポウ作曲『君の上にはただ花ばかり』に取り組んでいる。やはり!カタルーニャ語には悪戦苦闘。それでも、あの繊細で美しいメロディーを目指して、熱心に練習を続けている。レッスンのピアノ伴奏は私。ところが、このピアノがまた、あまりにも繊細だ。珠のような音ひとつ、ひとつが重なり、ガラスのように透明な世界を創りだす…はずなのに、シンプル過ぎて音をよく外す。デリケートな音の組み合わせだから、たとえ一音でも間違えると、もう台無し。ガラガラと世界は崩れ去り、我ながらガッカリしてしまう。この名曲を、作曲者モンポウ自身の伴奏でビクトリア・デ・ロス・アンへレスが歌っている貴重な映像がある。

『君の上にはただ花ばかり』


先日『Brava! Victoria』というページに遭遇した。残された膨大な録音、映像、インタビュー、日記、関係者の証言等々をまとめて、ビクトリア・デ・ロス・アンへレスの人生の軌跡をたどっている。若かりし頃のニューヨークでの姿、オペラのプリマドンナとしての活躍、世界各地での演奏活動、結婚、出産、アリシア・デ・ラローチャとのくつろいだ様子、リセウ再建のために歌うカルメン、たくさんのプライベート映像、共演したドミンゴや指揮者、ピアノ伴奏者のコメントetc。偉大な声楽家であると同時に、ひとりの女性として、生きて、愛したVictoriaの人生がひしひしと伝わってくる。このような形で「伝記」を制作し、しかも、それを世界に公開してくれていることに、心から感謝したい。
『Brava! Victoria』 TV3版 ~クリックしてご覧ください~

そして、ビクトリア・デ・ロス・アンへレスが歌う『愛の喜び』


これはもう単なる歌ではありません。ひとりの人間が語っています。語ることは歌うこと。歌うことは生きること。そんなビクトリア・デ・ロス・アンへレスの演奏に私は心惹かれるのです。彼女にぴたりと寄り添うマヌエル・ガルシア・モランテのピアノも圧巻。名コンビによる名演です。
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by Megumi_Tani | 2013-10-09 00:39 | スペイン歌曲 | Comments(0)