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『変わるもの・変わらないもの・変わろうとするもの』   

第8回スペインの音楽講座が終了しました。今回とり上げたのは、まず、ホアキン・トゥリーナ、ホアキン・ロドリーゴ、フェデリコ・モンポウの三人です。

セビーリャの裕福な画家の息子として生まれたトゥリーナは、幼い頃から楽才を発揮。パリへ出て作曲を学び、ほどなく、フォーレやダンディの影響を受けたフランス風の作品で、頭角を現します。ところがそこで、当時すでに大御所だったアルベニスに出会いました。「フランスかぶれ、ではなく、スペイン音楽、アンダルシア音楽に基づいた芸術を確立するのが、セビーリャ人としての君の役目ではないか?」というアルベニスの言葉に感動したトゥリーナは、以後、作風をガラリと変え、生涯、故郷セビーリャ色豊かな作品を書き続けました。物腰柔らかく、粋なセビーリャ男。どうやらモテモテだったらしいです。ちなみに、お写真は、こちら ⇒ Turina

トゥリーナ『ピアノと弦楽オーケストラのための交響的狂詩曲』


さて、日本で最も有名なスペインの作曲家のひとり、それがロドリーゴでしょう。悪性ジフテリアのために4歳で失明。しかし並外れた音楽的才能と人間力で、97歳で亡くなるまで、作曲家、ピアニスト、音楽評論家として、世界を舞台に活躍しました。いつも彼に寄り添い支えたヴィクトリア夫人の内助の功も見逃せません。大ヒット曲『アランフェス協奏曲』は、内戦に疲れ果てたスペインの人々の心を慰めたと言われています。
こちらの映像では、素晴らしいピアニストだったロドリーゴご本人が楽しそうに弾いています。
『アランフェス』の2楽章冒頭部分

ナルシソ・イエペスによる十弦ギターでの演奏


日本ではあまり知られていませんが、ロドリーゴは、数多くの歌曲作品を残しています。古風で典雅な曲、抒情豊かでメロディアスな曲、山椒は小粒でピリリと辛い風?の粋な曲、不協和音が炸裂する曲、そしてヴォカリーズで歌うアランフェス…。私のリサイタルでもリクエストの多い、人気曲が沢山あります。
「Recitalあれこれ《ロドリーゴ》」 
「ロドリーゴの魔力」 
「ヴォカリーズによる~わが心のアランフェス」
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ダイナミックに生きたロドリーゴとは対照的に、静謐ともいえる人生を送ったのがモンポウです。鐘鋳造の名門の家に生まれたモンポウも、やはり若い頃から才能を発揮しました。しかし、その精神のあまりの繊細さゆえ、思うように活動が出来ず、バルセロナとパリを何度も行き来しながら、長い苦しみの日々を過ごします。そんななか、親友ジャネスの詩による歌曲集『夢のたたかい』が生まれました。抒情的スペイン歌曲の最高傑作ともいえる作品です。後半生を凛々しく支えた夫人、カルメン・ブラーボと出会ったのもこの頃でした。

『夢のたたかい』より「君の上にはただ花ばかり」
ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレスの歌、モンポウご本人が伴奏を弾いています。


「感じるものが無く、質も高くないのに、いたずらに規模を大きくしたり、知識をひけらかすような曲は好まない。私には、私の形式、私の概念があり、そこからのみ、私の音楽が生まれる」
モンポウの言葉です。繊細、内省的、寡黙、瞑想的、、、そんな言葉で表現される彼の音楽は、幼少期に聞いた鐘の音に影響を受けた、とも言われています。
たとえば、ピアノ曲「秘密」  モンポウご本人の演奏で、お聴きください。


モンポウの作品もまた、私の大切なレパートリーです。なにもかも突き抜けたような透明感が好きです。留学時には、ガルシア・モランテ先生と一緒にご自宅を訪ね、モンポウご夫妻の前で、『夢のたたかい』を歌わせていただきました。まさに、夢のような想い出!
「モンポウの歌曲」   「夢のたたかい」

静かに、しかし、偉大なマエストロとして活躍したモンポウは、1987年、94歳で、カルメン夫人に看取られて亡くなりました。
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この三人のほかにも、ニン、グリディ、モレーノ・トローバ、トルドラ、ハルフテル兄弟、ジェラルド、モンサルバージェetc。数多くの重要なスペインの作曲家がいます。どこまでも「異国情緒あふれるスペイン」を描き続ける、後期ファリャが提唱したいわゆる「スペイン色」を脱した音楽を目指す、「パリ詣で」を経ずに己の音楽を確立する、十二音階を用いたスペイン音楽を構築する…。各々が各々の音を模索しながら、各々のスペインと向き合い、各々のスペインを愛し、各々のスペインと格闘している、そんな気がします。

古代から現代まで、スペインのクラシック音楽約二千年の歴史を一気に駆け抜けました。なんとも慌ただしい旅でしたが、それでも、少しは景色を眺めていただくことが出来たでしょうか?

次回からは、塾頭先生による、フラメンコ、スペインの軽音楽についての講義が始まります。
第5回教養講座『Las Músicas de España』(スペインの音楽)
これまでの講座の様子は、こちら。
『第1回』 『第2回』 『第3回』 『第4回』 『第5回』 『第6回』 『第7回』
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by Megumi_Tani | 2014-04-25 01:13 | 講座/セミナー | Comments(0)

『エスペランサの聖母に捧げる祈祷風のサエタ』   

スペインは今、聖週間(セマナ・サンタ)の真っ只中。キリストがエルサレムに入った日~枝の主日から復活の日曜日まで、今年は4月13日から20日の一週間に当たる。聖週間の間、仕事や学校はお休みになり、各々の街や村では、大小様々な宗教行列(プロセシオン)が行われる。
このプロセシオンの際、バルコニーから即興的に歌われる歌を「サエタ」という。「サエタ」とはスペイン語で「矢」の意。宗教的霊感に射抜かれた女性が、突如、神へのほとばしる熱情を吐露する。

セビーリャのプロセシオン 3分20秒あたりから「サエタ」が聴こえます。


J.トゥリーナ作曲『エスペランサの聖母に捧げる祈祷風のサエタ』は、このサエタにインスピレーションを受けて書かれた作品です。同じトゥリーナの作品でも、演奏効果の高い『歌の形による詩』は日本でも演奏されることがありますが、この『サエタ』は、ほとんどお耳にかかる機会がありません。しかし、この曲が内包するエネルギーには、凄まじいものがあります。もう四半世紀以上も前、スペイン歌曲に出会って、最初に魂を深く揺すぶられたのがこの曲でした。

『エスペランサの聖母に捧げる祈祷風のサエタ』
ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレス、26歳頃の演奏。


私の中には、この曲の明確なイメージがあります。ところが、これが曲者。なかなか思うように歌わせてくれない。リサイタルでも何度も取り上げてきましたが、歌っても、歌っても、歌い終わってみると、まだ自分のイメージに遠い。目指す世界がみえるのに、たどり着けないもどかしさ。それでも、それでも、と、歌い、求め続ける…。これもまた、祈りの歌の在り様なのかもしれません。

2011年リサイタルライブCD『Plegaria~祈り』には、このCDを制作するに至った思い、願い、祈りを込めて、『エスペランサの聖母に捧げる祈祷風のサエタ』を収録しました。
『祈り』  新譜CD『Plegaria~祈り』

CDがお手元にある方、聖週間にちなんで、ぜひお聴きになってみてください。
ご購入ご希望の方は、HPからどうぞ ⇒ 『谷めぐみの部屋』CDご案内
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by Megumi_Tani | 2014-04-15 00:03 | スペイン歌曲 | Comments(0)

『赤毛のアン』   

NHKの朝ドラ『花子とアン』が始まった。モンゴメリ原作『グリーン・ゲイブルスのアン』を日本に紹介した翻訳家、村岡花子の物語だ。

子どもの頃から大の読書好きだった私は、ご多分にもれず、村岡花子訳『赤毛のアン』に夢中になった。偏屈だけれど優しいマシュー、厳格なマリラ、親友のダイアナ、のちに夫になるギルバート…。どの人にも会ったことはないのに(当然!)まるで映画でも見たように、登場人物ひとりひとりの顔立ち、立ち居振る舞い、話し声、笑い声、いやそれだけではない、丘の上に立つグリーンゲイブルス~緑の切妻屋根の家も、マリラがピカピカに磨き上げた台所も、アンとダイアナの楽しいお喋り時間も、何もかもが私の心の中で明確に映像化されていた。私にとって、彼らはとても親しい「お隣さん」だった。そして、いつか英語をペラペラ話せるようになって、カナダのプリンス・エドワード島というところへ行ってみたい、と、秘かに夢をふくらませていた。人生は不思議だ。ある日突然、その英語がスペイン語に、プリンス・エドワード島がバルセロナに化けてしまうのだから…。

さて12日土曜日放送分で、花子がスコット先生に英語で謝るシーンがあった。ドア越しに苦手の英語で必死に謝罪の言葉を繰り返す花子。先生は姿を見せない。もうダメかと諦めかけたところでドアが開き、スコット先生が出て来る。「あなたを許します」と花子に言い、その後で「Thank you」と、にっこり微笑むのだ。花子の一生懸命の英語に「ありがとう」だ。スコット先生のそのひと言で、花子は英語が大好きになる。

よく似た経験がある。昔、ろくにスペイン語が出来ないまま渡西した私は、バルセロナで必死に勉強した。「毎日3時間、英語でスペイン語を学ぶ」というカリキュラム。いくら語学好きの私でも、これはかなりハードだった。ガルシア・モランテ先生とも最初は英語で話していた。しかしレッスンが始まるまでに、何とかスペイン語をものにしたかった。(そりゃそうだ、スペイン語の歌を勉強するためにはるばるやって来たのだから…)悪戦苦闘の一ヶ月が過ぎ、ある日、初めて先生に電話をかけることになった。街で買い物をしたり、日々の用事を済ませたりはできるようになっていたが、電話は手ごわい。身振りも手振りもアイコンタクトもないから、分からないとなったら、もうどうしようもない。私は先生に伝える内容をスペイン語で書き出し、何度も何度も言う練習をした。いよいよ本番?電話の主が私だと分かると、先生が英語で話し出した。すかさずストップをかけ、「Hoy voy a hablar en castellano(今日はスペイン語で話します)」と宣言した。受話器の向こうは…シ~ン。沈黙。一瞬不安がよぎる。しかしここで止めるわけにはいかない。私はそらんじていたスペイン語を一気にまくしたてた。すべて言い終わった。が、受話器の向こうは…シ~ン。返事がない。あぁダメだ。通じなかったのだ…。おそるおそる聞いてみた。「あの、あの、私の言ったこと、分かりましたか?」一瞬の沈黙。そして、受話器の向こうから先生の朗らかな声が聞こえてきた「Perfecto!メグミのスペイン語にありがとう!」

私のスペイン語がパーフェクトだったわけがない。でも、先生のひと言で、私は怖かった?スペイン語が大好きになった。毎日3時間の授業もなんのその。少しでも早く、少しでも多くの人と、多くのことについて、スペイン語で意思の疎通がしたかった。心が動けば物事は動く。あれよあれよという間に、まるで魔法のように、私のスペイン語は上達してくれた。先生の「Gracias」に、ありがとう、だった。スコット先生の「Thank you」も、きっと花子の一生の宝になるにちがいない。

ドラマによく出てくる方言「こぴっと」は、響きがスペイン語の「pico」を思わせる。ピコはちょっぴり、の意味だが、こぴっと、は、しっかり、の意味だそうな。驚いたときの「てっ!」は「ケッ!」を連想させる。「Qué!」⇒「なんてこった!」

それにしても、ドラマが始まって二週間。自分のピコならぬ反応に「てっ!!!!」
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by Megumi_Tani | 2014-04-13 02:36 | 本の窓 | Comments(0)

松永安正展『スペイン回帰』   

“スペイン”を描き続ける画家、松永安正さんの個展が東京で開かれます。
2014年4月10日(木)~14日(月)11:00~19:00(最終日は17:00まで)
会場:もみの木画廊 
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松永さんとは、留学時代にバルセロナでお目にかかりました。その後、お互いの消息を知ることもなく、時は流れて二十年。このブログでもおなじみの吉祥寺ドスガトスへ行くと、壁に松永さんの絵が…。「友達の絵です」との高森シェフの言葉に驚きました。高森シェフとは東京で知り合いましたが、話してみると、実は同じ時期にバルセロナの同じ界隈を歩き回っていた、という経緯があります。それから間もなくドスガトスのワインパーティーで松永さんと再会しました。今よりずっと日本人が少なかった時代とはいえ、世間は狭い!
El mundo es un pañuelo世界は一枚のハンカチ!

優しさの奥に熱いものを秘めた絵は、松永さんのお人柄そのもの。会場でご本人にお目にかかれるかもしれません。皆様、ぜひお出かけください。

ドスガトスの情報はこちら。
『魅惑のクワハーダ』  『美味しいコンサート~Concierto en Dos Gatos~』 
『美味しいコンサートVol.2 』  『高森シェフ、NHKに登場!』

我らが青春時代(笑)の聖家族教会。塔がこれだけしかありませんでした。
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by Megumi_Tani | 2014-04-02 22:58 | エトセトラ | Comments(0)

桜満開   

桜が咲く季節はうれしい。ふんわりと心が軽くなる。今日のJR国立駅前、大学通り。見事!
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去年は、バルセロナの友人と一緒に井の頭公園の満々開の桜を見た。『桜源郷』
今年は寒さが長引いたせいで、まだスギ花粉がビュンビュン飛んでいるのが難だけど…。
それでも、それでも、きれい。
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by Megumi_Tani | 2014-04-02 21:03 | エトセトラ | Comments(0)