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ミツバチのささやき / エル・スール   

ビクトル・エリセ監督『ミツバチのささやき』『 エル・スール』のデジタルリマスター版が劇場初公開されている。

ミツバチのささやき』は、とある小さな村で暮らす幼い姉妹と両親の物語。主人公の少女をはじめ、登場人物ひとりひとりの心の迷宮が、静かに、丁寧に描かれていく。原題は『El espíritu de la colmena~ミツバチの精霊』。フランコ政権下で制作、沈黙のメッセージが込められた、といわれる作品だ。



エル・スール』の「スール~sur」とは「南」の意。心に秘密を潜めた家族の年月が、娘の語りで明かされていく。家族が住む「北」と父のルーツであるらしい「南」、父と父を大好きな娘の葛藤、母の苦しみ、父の乳母が語る内戦前と内戦後の矛盾、相克…。

音楽も耳を惹きつける。「南」のテーマとして、グラナドス『スペイン舞曲第5番アンダルーサ』が繰り返し流れ、父がカフェで秘密の手紙を書く場面では、同じくグラナドス『オリエンタル』が響く。カフェの店名が「オリエンタル」という設定だ。初聖体拝受式後の宴で、父と娘がパソ・ドブレを踊る。同じパソ・ドブレが父と娘の最後の別れの場面でも象徴的に使われている。そうそう、ホテルの結婚式では、「ラ・クンパルシータ」も聞こえていた。

そして、主人公エストレリャの小さな星形の指輪。「エストレリャ~Estrella」とは「星」の意。「私はエストレリャよ」星形の指輪は、そんな少女の強い意思にも感じられる。

初聖体拝受式の後、父と娘がパソ・ドブレを踊る場面


「南」のテーマ「スペイン舞曲第5番アンダルーサ」


とにかく映像が美しい。ひとつひとつの場面があたかも柔らかく繊細な絵画のよう。全体を深く支配する漆黒の闇、沈黙、秘密、哀しみ、悼み…。いつの間にか、こちらも迷宮に誘い込まれてしまいます。

3月25日に公開されたばかり。昔ご覧になった方も、もう一度いかがですか?
ユーロスペース
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by Megumi_Tani | 2017-03-31 00:00 | ビバ!エスパーニャ! | Comments(0)

101回めの命日   

昨日3月24日は、エンリケ・グラナドス101回目の命日だった。

ニューヨークでオペラ『ゴイエスカス』初演の大成功に立ち会い、数々の賛辞を受け、ホワイトハウスにも招かれ、安堵と喜びに満たされてバルセロナへ帰る、その途中、グラナドス夫妻が乗った船は英仏海峡でドイツ潜航艇の無差別攻撃を受け、沈没した。いったん救助されかかったグラナドスだったが、波間でもがく妻アンパロを見つけ、彼女を助けようと、再び海へ…。二人の姿が戻ることはなかった。

グラナドスは泳げなかった。そもそも海が嫌いだった。ニューヨークへの船旅も渋っていたが、第一次世界大戦勃発のために、いつまでたっても日の目を見ない『ゴイエスカス』の初演を、メトロポリタン歌劇場が引き受けてくれたのだ。行かないわけにはいかない。いや、何が何でも行きたかっただろう。『ゴイエスカス』は、グラナドスが愛したマハとマホの世界そのものの物語だったのだから。しかし、意を決して敢行したその船旅で命を落とすことになった。哀しい戦争の犠牲だ。

後日談が残されている。グラナドスの息子のひとりは、水泳100メートル自由形のスペイン・チャンピオンになった!彼の妻も水泳のチャンピオンであり、彼らの息子達-グラナドスの孫にあたる-も、長距離と短距離の選手になった。突然の海での悲劇に襲われたグラナドス一家。しかし子ども達は「水」に負けなかった。それどころか、水に親しみ、水を制覇してみせたのだ。「おじいちゃんとおばあちゃんは船の事故で亡くなった。でも、もしも泳げれば、助かっていたかもしれない。そう思って、パパは一生懸命水泳のトレーニングに励んだんだ。お前達も頑張るんだよ」と、グラナドスの息子さんがそのまた二人の息子さんに語ったのでは…。などと思いを巡らすと、ふと心が和む。

昨年は没後100年、そして今年は生誕150年。グラナドスの記念の年に現役の歌い手でいられたことを心から幸せに思う。秋11月のリサイタルでは、人気の作品に加えて、日本ではほとんど知られていない隠れた名歌を捧げたい。

グラナドス夫妻、最後の写真
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by Megumi_Tani | 2017-03-25 23:31 | スペイン歌曲 | Comments(0)

天使の応援?   

秋リサイタルに向けて、選曲も佳境。今年のタイトルは《スペイン浪漫Ⅲ~E.エンリケ・グラナドス生誕150年、F.モンポウ没後30年に捧ぐ》。浮かび上がるイメージ、ストーリー、伝えたいこと、声、ピアノの響き…。それらを、どんな形でこの世に具現化するか。わずか2時間のあの時空を目指して、エネルギーのすべてを注ぎ込む。楽しいけれど大変、大変だけれど楽しい作業だ。

どんなに好きでも、人間、たまにはくたびれる(笑)。そんな時、いつも心に浮かぶ光景がある。1986年夏、アルベニス生誕の町カンプロドンで聴いたビクトリア・デ・ロス・アンへレスと師マヌエル・ガルシア・モランテの演奏会、そのリハーサルだ。
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バルセロナから車で2時間ほどのところにあるカタルーニャの鄙びた町カンプロドン。中世の面影をそのまま残す町の修道院で演奏会は開かれた。私は弟子特権?で、二人のリハーサルを最初から最後まで、ずっと聴かせてもらった。客席には私ひとり。美しく、贅沢な時間だった。スペインでも日本でも二人の演奏会を何度も聴いたが、このリハーサルは格別で、あたかも一幅の絵のごとく鮮明に心に焼き付いている。この時に聴いたアルベニスの『Barcarola』は、後に私の大切なレパートリーになった。Youtubeでも見つからない、ほぼ無名の曲だが、歌えば、心は一瞬であのカンプロドンに飛んで行く。歌の原点に立ち返らせてくれる。 『ビクトリア・デ・ロス・アンへレスの想い出

ここ数日ボンヤリとそんなことを考えていたら、なんと!FBで、バルセロナ在住の建築家丹下敏明氏が自ら撮影したカンプロドンの写真をアップしてくださった。嬉しい偶然!
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シエスタの時間にホテルを抜け出し、町を歩き回ったことを思い出す。懐かしい…。こういう時は、ちょっと厚かましいけれど、天使(Àngel ~アンヘル)が空の上から応援?してくれている気がする。ありがとうございます。頑張ろうっと!

カタルーニャ音楽堂での記念リサイタル。1:01:30あたりから『Barcarola』です。

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by Megumi_Tani | 2017-03-20 00:04 | スペイン歌曲 | Comments(0)

六年目の3・11   

昨年の3月11日は何をしていたか?一昨年の3月11日は何をしていたか?ちっとも思い出せないのに、六年前の3月11日、出先で何が起き、どこを彷徨い、どうやって家にたどり着いたか、克明に覚えている。忘れてはいけない、風化させてはいけない、と、さかんに呼びかけられているが、私個人の気持ちを言えば、とても忘れることなどできない。東京に住む者でさえこの有様だ。まして被災地の方々は…と思うと、言葉が見つからない。時間の経過とともに諸課題が複雑化し、あれこれ語ることが難しくなっているような気がする。復興を、ただただ祈りたい。

Yahoo! JAPANが、こんなサイトを立ち上げています。
クリックが支援になります。3月11日23時59分まで。
3.11 応援企画『3.11、検索は応援になる。』
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東日本大震災復興支援『いい音楽、届けようプロジェクト』
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2011年4月、外国人演奏家の来日キャンセルが相次ぐなか、ドミンゴが約束通りやって来てくれた。彼の温かいメッセージと、アンコールの「ふるさと」、忘れられない。
このブログで何度もご紹介しましたが、六年目の今日再び。


そして、もう一人。4月に来日してくれたフェリシティー・ロット。静かな祈りです。

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by Megumi_Tani | 2017-03-11 19:51 | 思い&想い | Comments(0)

フェリーぺⅡ世の時代   

日西翻訳通訳研究塾にて開催の教養講座『スペイン史ma専科』第6回を受講した。
今回のテーマは、フェリーペⅡ世の時代。16世紀、いわゆる黄金世紀のスペインだ。

フェリーペⅡ世は生涯に4回結婚している。王妃がお産で命を落とし、やむなく次の王妃を迎え入れる。その王妃がまたお産で命を落とし、再び王妃を迎え入れる…。その繰り返しだ。信仰深く、人格者であったフェリーペⅡ世は、どの結婚でも、王妃を大切に愛した。

しかし、その結婚諸々に絡む姻戚関係が、どうしようもなくややこしい。誰かが誰かに嫁ぎ、その子が誰で、その誰かの妹がどこかへ嫁に行って産んだ子が誰で、その誰かが成長して誰かの嫁になり…。ハァ、頭がジーンと痺れて来る。そう、昔、この蜘蛛の糸のごとく絡み合う相関図を覚えるのが面倒で、世界史嫌いになったのだ 008.gif

あの『ドン・キホーテ』のミゲル・デ・セルバンテス、神秘主義・神秘文学者の聖女テレサ、十字架のヨハネ、画家エル・グレコ…。黄金世紀スペインには輝かしい文化が花開いた。音楽も例外ではない。宗教音楽の作曲に生涯を捧げたトマス・ルイス・デ・ビクトリア、『ウプサラの歌曲集』ほかの世俗歌曲、独自の発展を遂げたオルガン、7人衆で知られるビウエラ…。村人の歌:ビリャンシーコ、ビリャンシーコを採り入れた村人劇、物語り歌、恋の歌、日常の人情の機微を折り込んだ歌等々、庶民の歌も大いに発達した。

太陽の沈まない帝国スペイン、黄金世紀スペイン、燦然と輝く世界の超大国スペイン。
実はすぐ後に、次なる時代が息を詰めて待ち構えているのだけれど…。

『ウプサラの歌曲集』より「何で洗いましょう?」


フェリーペⅡ世の命によって建造されたエル・エスコリアル修道院(宮殿)

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by Megumi_Tani | 2017-03-09 00:16 | ビバ!エスパーニャ! | Comments(0)

『いい音楽、届けようプロジェクト』その2   

昨年12月の『Plegaria』につづいて、拙CD『谷めぐみが歌う 魅惑のスペイン』が東日本大震災復興支援プロジェクトに参加させていただくことになった。福島、宮城、岩手、各県のエフエム局にCDが送られる。
『いい音楽、届けようプロジェクト』

冷たい風が吹きすさぶ寒い日だった。都内の電車がすべてストップ。知らない町の知らないバスを乗り継ぎ、乗り継ぎ、ほぼ6時間後に帰宅した。大渋滞で立ち往生したバスの車内から見た光景、オレンジ色の街灯に照らされた夜道を、おびただしい数の人がただ黙々と歩いていた、あの光景は忘れられない。

大震災からもうすぐ六年。今、拙CDをお役に立てていただけることに感謝している。
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by Megumi_Tani | 2017-03-02 22:12 | 音楽あれこれ | Comments(0)