世は連休。カンタオーラ濱田吾愛さんからのご案内で、高円寺カサ・デ・エスペランサで開かれた「カンテへの鼓動~Latido al cante」に行ってきた。カンテ3名、ギター3名に加えて、この夜はスペシャルでバイレも入り、盛りだくさんのプログラム。舞台が目の前、という狭い空間。一曲、一曲が真剣勝負だ。カンテ、ギター各々の個性が時に際立ち、時に溶け合い、音の命がほとばしる。熱いライブ。あっという間に夜が更けた。
フラメンコといえばあの華やかな衣装の踊りが思い浮かぶ。日本でも驚くほど愛好家が多い。しかしフラメンコは踊りだけではない。フラメンコの核を成すのは歌であり、ギターである。フラメンコの歌い手のことをカンタオール(男性)、カンタオーラ(女性)、彼らが歌う歌をカンテとよぶ。同じ歌い手でも、私はカンタンテであり、私たちが歌うはカント、あるいはカンシオンである。同じスペイン音楽の「歌」であっても、別個に存在する芸術だ。
ところが、当然といえば当然、そして興味深いといえば誠に興味深いことだが、まるで別のものであっても、カントとカンテの内奥には共通の何かが潜む。情熱、という言葉よりも、もっと深い何か。情(じょう)ではなく情(なさけ)、ただの熱ではなく灼熱。涙を真っ向から受けとめ、血を流し、それでも天を仰ぐ、愚直さ、哀しさ…。カンタンテもカンタオールもカンタオーラも、スタイルは違えど、嘘なく、正直に、己の真実を声に賭ける。そこには、ただのきれいごとではない、生きることへの切ない共感がある。
先日カンテ好きの方から、「お奨めの曲はありませんか?」とお尋ねを受けた。私のイチ押は、ロシオ・フラードが歌うファリャ『恋は魔術師』。「愛の悩みの歌」は何人ものカンタオーラが歌っている。ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレスもテレサ・ベルガンサも歌っている。しかしこの曲に関する限り、私の中ではロシオ・フラードが一番だ。クラシックとフラメンコ、民謡、ポピュラーをかなり自由に行き来できるのもスペイン音楽の魅力である。
ファリャ『恋は魔術師』より「鬼火の踊り」
伝説の3人~アントニオ・ガデス×クリスティーナ・オヨス×ロシオ・フラード
ちなみに、「スペインといばフラメンコですけど、谷さん、舞台で踊るんですか?」と聞かれることもあります。私は踊りません。でも、踊りたくなることはあります(^^)