第6回を聴講させていただいた。
今回の講師は、様々なメディアで大活躍されている精神科医、
香山リカ先生。「声が出なくなるとき-精神医療の現場から」と題し、精神科医療とは何か?診断、治療はどのように行われるのか?「声」が出なくなるのはどんなときか?「声」を失った人にどう向き合うか?等々について、ざっくばらんに分かりやすくお話しくださった。
精神科医療は、診断→治療という意味では他の科の医療と同じだ。しかし、診断を絞る際に使う客観的手段(血液検査、レントゲン、CT、 etc)、客観的数字がほぼ存在しない。それらの代わりに、精神科医は、患者の全体(言葉、声、身振り、服装など)を観察し、カウンセリング的な話をしながら、手探りで診断を付けていく。診断が付き、薬服用の指示が出ても、患者の中にはそもそも病識が無く、それを受け入れない人もいる。本人が困っていなくても周囲が困っているケースもある。これらも精神科医療の特徴だ。
精神科医に求められる態度の基本は「傾聴、受容、共感」であり、「
ロジャーズの三原則」が名高い。相手の話に肯定的関心を持ち、相手の話を評価、選別せず、相手の立場になって相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。ただし相手のみならず、自分自身に対しても真摯でなければならない。分からないことを分からないままにしておいたり、嘘をついてまで相手に合わせてはいけない。香山先生の経験では、ロジャーズの面接を行い、ある程度「声」に出して語ると、患者さんの7~8割は症状が改善するそうだ。ここで「声」、「言葉」の力が発揮される。
近年、「共感」における「バウンダリー(心の境界線)」の重要性が指摘されている。共感は感情労働であり、疲労を伴う。共感し過ぎることで疲労は蓄積し、相手ではなくこちらが甚大なストレスを受けることになるからだ。
心因性失声-声が出なくなること。原因は分からないそうだ。声だけではなく心因性とされる病気はほかにも沢山ある。これらは、身体の機能を失うほどの症状、我が身を賭してまでも何かを訴えている症状、と捉えられる。その症状が起きている理由を周囲が認め、理解することが肝要だ。
最近は、インスタグラムに代表されるように映像の力が上がり、言葉の力が落ちている。プロセスのあるもの、理解に努力を要するものが疎まれ、時間をかけることの大切さが忘れられかけている。生身の体を持った存在としての人間をもっと自覚しなければならない。講座で学ばれている方々は、生の声の魅力で相手を巻き込み理解を深める「朗読」をぜひ続けていただきたい、と、結ばれた。
先生のトークはどこまでも軽やか。身近な例を次々と挙げ、ユーモアを交え、そうじゃないですか!そうですよねぇ!と相槌を促す。いつの間にか、会場全体がフムフムと共感していた。
「声の力」は「心の力」だ。プロセスを大切に、丁寧に時間をかけ、心を尽くした歌を歌いたい、と、あらためて思う。