海のカテドラル~百人会議の間
2010年 07月 11日
物語のまだ始まりの部分で、主人公の義理の叔父が「百人会議」のメンバーに任命されるのを今か、今かと待っている記述がある。繁栄を極めた中世バルセロナでは、名誉市民に商人、職人階級を加えた「百人会議」が成立していた。1374年開催の第一回会議から会場として使用されてきたのが、市庁舎にある「百人会議の間」である。
話は20世紀に飛ぶ。1985年6月、その由緒ある「百人会議の間」で、私は歌った。師マヌエル・ガルシア・モランテ編曲による「日本民謡集」出版記念特別演奏会が開かれたのだ。私はこの曲集の歌詞・解説の西訳を担当していた。日本語をひと文字づつ手書きし(パソコンはおろかワープロもない時代だった)、表紙の題字は父に依頼。無事完成、出版にこぎ着け、最後の仕上げが、この演奏会というわけだった。
師は、第20回リサイタルのために寄せてくれたコメントの中でも、この想い出に触れている。
「海のカテドラル」を読んでいると、モンジュイックの丘から見た地中海が目に浮かぶ。ゴシック地区の喧騒が蘇る。誇り高き自由都市バルセロナ。「百人会議の間」での演奏会は、私が考える以上に、名誉ある晴れ舞台だったのかもしれない。