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カザルスホールのこと   

『第1回カザルスホールフェスティバル』のパンフレットが手元にある。
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1990年10月5日から22日の間に、室内楽やチェロを中心とした演奏会、シンポジウム、マスタークラス等々の企画がずらりと並んでいる。世界の著名な音楽家からの祝辞、カザルスの珍しい写真、当時の総合プロデューサー萩元晴彦氏の力強いメッセージ、カザルスゆかりの方々のエッセイなど、それはそれは豪華な内容だ。世情の変化もあろうが、こんな読み応えのあるパンフレットには、昨今、とんとお目にかからなくなった。

ビクトリア・デ・ロス・アンへレスもこのフェスティバルに招かれ、伴奏者である私の師マヌエル・ガルシア・モランテとともに来日。二度の特別演奏会を開いた。一晩目はスペインもの、二晩目はシューマン、シューベルト、ラベル、アーン等の作品。ビクトリア・デ・ロス・アンへレスのレパートリーの広さは驚嘆すべきものだ。あの伝説的名伴奏者ジェラルド・ムーアの引退演奏会にE.シュワルツコップ、F.ディスカウと並んで出演したことからも、その偉大さが分かる。
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「留学中に娘がお世話になった先生が来日されるのなら、ぜひご挨拶させていただきたい」そう言って、両親が上京した。ビクトリア・デ・ロス・アンへレスとモランテ先生の姿が少しでもよく見えるように、と、最前列に確保した席で演奏会を拝聴。翌日、帝国ホテルでモランテ先生に面会した。ティールームでお茶をご一緒しながら、そこでも歌の質問をぶつける私とそれに優しく丁寧に答えてくれる先生とのやりとりを、両親は興味津々で眺めていた。

長い時を経た2007年、カザルスホールの開演チャイム「鳥の歌」が私に命を吹き込んでくれた。色々なことが重なり、くたびれて席に座りこんでいた私の耳に聴こえてきたメロディー…「あ、これは鳥の歌…」。あの春の日の午後、知人のコンサートを聴きに行かなければ、今、私は歌っていないかもしれない。

2009年、突然の閉館のニュースに耳を疑った。そして2010年3月31日、本当にその歴史に幕が下ろされてしまった。

遠く美しい夢の記憶。永遠なれ。

by Megumi_Tani | 2013-01-14 20:28 | スペイン音楽 | Comments(0)

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