マホとマハ~恋のお話   

グラナドスの『Tonadillas~昔風のスペイン歌曲集』は大好きな作品だ。昔風の、というけれど、決して昔風ではない。古今東西、いつの時代にも通じる男と女のショートストーリー。過ぎた恋を懐かしみ、臆病な男を笑い、秘めた恋に揺れ動き、亡き恋人への思いに慟哭し、好まぬ男をさらりとかわす…。グラナドスが「ゴヤの時代」への限りない憧れをこめた歌の数々は、粋でお洒落、甘く、切なく、小気味よく、どこかちょっぴり可笑しい。歌詞に登場するマホは下町の伊達男、マハは下町の粋な女、とでも訳そうか。決してマホ君とマハさん、というお名前ではありません、念のため。一曲一曲はごく短い。その中にグラナドスの魅力がギュッと凝縮している。まさに、山椒は小粒でピリリと辛い!スペインの粋を極めた最高傑作だ。

留学中、まだお元気だったグラナドスの末娘ナタリアさんのお宅を訪ねた。「パパの曲を日本から来た小さな娘さんがこんなに素敵に歌うなんて!」と驚き、かたく抱きしめてくれたことを思い出す。ナタリアさんがまだ小さな子どもだった時に、彼女のパパとママは、自作のオペラ「ゴィエスカス」のニューヨーク初演に立ち会った帰りの航路で、ドイツ潜航艇の無差別攻撃に遭い、亡くなってしまったのだ。グラナドスと親交が深かったカザルスは、慈善演奏会を開くなどして、ナタリアさんたち遺された六人の子どもを助けた。スペイン音楽の歴史に登場するナタリアさん。実際にお目にかかれたことは、本当に幸せだったと思う。

<ゴヤのマハ>
あたしは決して忘れない 粋で愛しいゴヤの面影 下町の女も奥様も ゴヤを懐かしまぬ女はいない 彼があたしを愛したように 愛してくれる男に会えたなら もうそれ以上の幸運も幸せは望まない

<内気なマホ>
夜になると窓辺にやって来るマホ あたしを眺め ため息をついて帰っていく あぁ何て臆病者! そんな人生お笑い草よ もしも今日もやって来て その気にならずに帰るなら 言ってあげるわ「幽霊さん」と あぁ何て臆病者! 恋した女は窓辺が憎い

<愛と憎しみ>
この苦しみは隠しておけると思っていた 性悪のマホがあたしの胸に灯した恋心 胸深く秘めて誰にも気づかれないはずだった それなのに当のマホが気がついた でも気がついても知らん顔 彼にとっては他人事 それがまたあたしの苦しみなの…

<嘆きにくれるマハⅡ>
あたしの命のマホ あなたが死んだはずがない もしもそれが本当なら あたしが生きてるはずがない あなたの唇に狂ったように口づけしたい もっとあなたの幸せを分かち合いたい 心が壊れて夢をみる あたしのマホはいない みんな涙にくれている この苦しみに慰めはない 死んで冷たくなったって マホはいつまでもあたしのもの

<トラ・ラ・ラとギターのつまびき>
どんなに話し続けても無駄よ あたしは歌でお答えするだけ トラ・ラ・ラ… もっと何かを尋ねても あたしは歌をやめはしないわ トラ・ラ・ラ…

グラナドスの末娘ナタリアさんに戴いた papá の写真。
裏面に「Megumiへ~Natalia」と、サインがあります。
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『グラナドス歌曲全集』 近年、こういう美しい楽譜にはめったにお目にかかれません。
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by Megumi_Tani | 2013-05-14 23:41 | スペイン歌曲 | Comments(0)

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