見えないシナリオ
2013年 08月 03日
多様な作品と、その膨大な作品の数に負けない風聞・醜聞に彩られた画家、ピカソ。マラガの生まれだが、十代後半の一時期をバルセロナで過ごした。ゴシック地区にはピカソ美術館がある。渋谷パルコでは、ただ今『ピカソ愛と芸術の版画展』開催中。東京は8月19日まで。その後、仙台、名古屋、札幌も回る。
北海道の思いがけない場所にもピカソの作品がある。荒井記念美術館。以前、夏休みに帰省した折に立ち寄った。道の看板を頼りにうっそうとした山道を車でたどっていくと、突然、お洒落な建物が現れる。とても素敵な空間だ。
カザルスは1973年4月8日満91歳で、ピカソは同じ1973年10月22日満97歳を目前にして亡くなっている。まったく違う世界を違う形で生きた二人だけれど、己の芸術をそのまま己の人生とし、どこまでも女性を愛し、長寿をまっとうした点は共通している。この世を生きるとは?生をまっとうするとは?二人に、ふと、シンボリックな共時性、を感じる。
色鮮やかな記憶がある。ずい分前、マリア・カラスのビデオを自宅で見ていたときのこと。私は元々はカラスの声が苦手だったが、ある時たまたま買ったLPレコード(!)でトゥーランドットのリュウのアリアを聴いて、目から鱗が落ちた。凄いものは凄い、そう思うようになったのだ。その日見ていたビデオは古いモノクロの映像だったが、カラスの美しさとエキセントリックな声は圧倒的だった。そして同時に、どこか破滅的な痛々しさがあった。あぁ、こういう人は長くは生きられないのだなぁ…。強く美しく咲いて、次の瞬間、パッとこの世から消えてしまうのだなぁ…。ビデオが終わると、思わず深いため息が出た。気がつかないうちに部屋が真っ暗になっている。何気なくテレビのスイッチを入れた。ちょうど夜7時の時報。そして、いきなり、ダイアナ妃事故死のニュースが飛び込んで来た。体が震えた。ここにも、強く美しく咲いて、次の瞬間、パッと消えた人がいる。どこかよく似たシナリオを生きた二人…。