鐘は「語る」   

昨日1月15日はビクトリア・デ・ロス・アンへレスの命日だった。天に召されて早や九年。訃報が伝えられた時、Mikikoさんは追悼の記帳に駆けつけ、「メグミさんの名前も記してきたからね」と、連絡をくれた。バルセロナがいつも心に在るように、ビクトリア・デ・ロス・アンへレスもまた、いつも私の心に在る。

年月を経るほどに、彼女の歌の素晴らしさを、より強く感じるようになった。ひとつの歌を俯瞰してみても、細部に耳を澄ませてみても、実にうまい(なんて言い方は、とっても生意気、失礼だけれど…)。すべての音が、歌詞のひと言ひと言が「語って」いる。妙味、とでもいうのだろうか。

それにつけても思い出されるのは、日本で開かれた彼女のマスタークラスでの出来事だ。ひとりの受講生が、ドリーブの『鐘の歌』を歌った。

『鐘の歌』マリア・カラス


見事に歌い終わった。どうだ!と満面の笑み。会場からも思わず拍手が沸いた。ところが、ビクトリア・デ・ロス・アンへレスはニコリともしない。そして受講生に尋ねた。「あなたは、この冒頭の音が何を表現しているのか、分かっていますか?」「はい。鐘の音です」「その通り。では、もう一度歌ってください」受講生が歌うと、ロス・アンへレスはまた途中で演奏を止めた。「あなたは、その鐘の音が何を表しているのか、分かっていますか?」「はい。もちろんです」「そうですか。では、もう一度歌ってください」また彼女が歌い始めた。冒頭の部分を過ぎたところで、ロス・アンへレスは再び演奏を止めた。「あなたは鐘の音を理解していない。すべての鐘の音には、ひとつひとつに意味があるのです。いつもどんな音にも意味があるのです。歌い手は決して機械のように歌ってはいけません」「それはよく分かっています」強気で言い返す受講生。表情が険しくなっている。上手に歌ったつもりが予想外の指摘を受け、怒っているのだ。二人の間で通訳を務める私は内心ハラハラ…。「そうですか。分かっているのなら、もう一度歌ってください」明らかにムッとして受講生が歌い出した。ロス・アンへレスはあの黒い大きな目でジッと彼女を見つめながら聴いていたが、まもなく演奏を止めた。そして言ったのだ「あなたは私の言うことを理解していない。理解しようともしていない。あなたのレッスンはこれで終わりです。ステージから降りてください」シーンと静まり返る会場。厳しい言葉を通訳する私を睨みつけて、去りゆく受講生…。

「すべての音には意味がある」この教えは深い。音そのものの意味、存在を感じ、その音に載せられた歌詞のひと言ひと言を感じ、歌い手は歌を語る。その語り口に、歌い手そのものが滲み出る。ビクトリア・デ・ロス・アンへレスの語り口が、私は大好きなのだ。

フォーレ『レクイエム』より ピエ・イエズ


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by Megumi_Tani | 2014-01-16 22:48 | スペイン歌曲 | Comments(0)

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