『赤毛のアン』   

NHKの朝ドラ『花子とアン』が始まった。モンゴメリ原作『グリーン・ゲイブルスのアン』を日本に紹介した翻訳家、村岡花子の物語だ。

子どもの頃から大の読書好きだった私は、ご多分にもれず、村岡花子訳『赤毛のアン』に夢中になった。偏屈だけれど優しいマシュー、厳格なマリラ、親友のダイアナ、のちに夫になるギルバート…。どの人にも会ったことはないのに(当然!)まるで映画でも見たように、登場人物ひとりひとりの顔立ち、立ち居振る舞い、話し声、笑い声、いやそれだけではない、丘の上に立つグリーンゲイブルス~緑の切妻屋根の家も、マリラがピカピカに磨き上げた台所も、アンとダイアナの楽しいお喋り時間も、何もかもが私の心の中で明確に映像化されていた。私にとって、彼らはとても親しい「お隣さん」だった。そして、いつか英語をペラペラ話せるようになって、カナダのプリンス・エドワード島というところへ行ってみたい、と、秘かに夢をふくらませていた。人生は不思議だ。ある日突然、その英語がスペイン語に、プリンス・エドワード島がバルセロナに化けてしまうのだから…。

さて12日土曜日放送分で、花子がスコット先生に英語で謝るシーンがあった。ドア越しに苦手の英語で必死に謝罪の言葉を繰り返す花子。先生は姿を見せない。もうダメかと諦めかけたところでドアが開き、スコット先生が出て来る。「あなたを許します」と花子に言い、その後で「Thank you」と、にっこり微笑むのだ。花子の一生懸命の英語に「ありがとう」だ。スコット先生のそのひと言で、花子は英語が大好きになる。

よく似た経験がある。昔、ろくにスペイン語が出来ないまま渡西した私は、バルセロナで必死に勉強した。「毎日3時間、英語でスペイン語を学ぶ」というカリキュラム。いくら語学好きの私でも、これはかなりハードだった。ガルシア・モランテ先生とも最初は英語で話していた。しかしレッスンが始まるまでに、何とかスペイン語をものにしたかった。(そりゃそうだ、スペイン語の歌を勉強するためにはるばるやって来たのだから…)悪戦苦闘の一ヶ月が過ぎ、ある日、初めて先生に電話をかけることになった。街で買い物をしたり、日々の用事を済ませたりはできるようになっていたが、電話は手ごわい。身振りも手振りもアイコンタクトもないから、分からないとなったら、もうどうしようもない。私は先生に伝える内容をスペイン語で書き出し、何度も何度も言う練習をした。いよいよ本番?電話の主が私だと分かると、先生が英語で話し出した。すかさずストップをかけ、「Hoy voy a hablar en castellano(今日はスペイン語で話します)」と宣言した。受話器の向こうは…シ~ン。沈黙。一瞬不安がよぎる。しかしここで止めるわけにはいかない。私はそらんじていたスペイン語を一気にまくしたてた。すべて言い終わった。が、受話器の向こうは…シ~ン。返事がない。あぁダメだ。通じなかったのだ…。おそるおそる聞いてみた。「あの、あの、私の言ったこと、分かりましたか?」一瞬の沈黙。そして、受話器の向こうから先生の朗らかな声が聞こえてきた「Perfecto!メグミのスペイン語にありがとう!」

私のスペイン語がパーフェクトだったわけがない。でも、先生のひと言で、私は怖かった?スペイン語が大好きになった。毎日3時間の授業もなんのその。少しでも早く、少しでも多くの人と、多くのことについて、スペイン語で意思の疎通がしたかった。心が動けば物事は動く。あれよあれよという間に、まるで魔法のように、私のスペイン語は上達してくれた。先生の「Gracias」に、ありがとう、だった。スコット先生の「Thank you」も、きっと花子の一生の宝になるにちがいない。

ドラマによく出てくる方言「こぴっと」は、響きがスペイン語の「pico」を思わせる。ピコはちょっぴり、の意味だが、こぴっと、は、しっかり、の意味だそうな。驚いたときの「てっ!」は「ケッ!」を連想させる。「Qué!」⇒「なんてこった!」

それにしても、ドラマが始まって二週間。自分のピコならぬ反応に「てっ!!!!」
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by Megumi_Tani | 2014-04-13 02:36 | 本の窓 | Comments(0)

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