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新刊『オペラは手ごわい』   

今年のお正月、NHK教育テレビ『らららクラシック』で、プッチーニのオペラ「トゥーランドット」が取り上げられていた。このオペラには、リューという女奴隷が登場する。原作にはなかった役だそうな。オペラ化にあたり、プッチーニが、わざわざこの哀れな女奴隷の役を創作したのだ。では、なぜプッチーニは、そこまでしてリューを登場させたのか?その辺の事情を、オペラ研究家、岸純信先生が極めて分かりやすく解説してくれた。なるほど。プッチーニって、恋多き男だったのね。。。
それにしても、リューとは、懐かしい!昔々の鮮烈な記憶が蘇った。

大学を卒業して間もない頃、まだスペイン歌曲に出会う前の話だ。私はとある演奏会でリューのアリアを歌うことになった。いや、正確には、何かアリアを歌わなければならない会だったので、自分でこのアリアを選んだのだ。エキゾチックな音と切々たる哀感、そして鋭く突き刺さるような最後の二音が好きだった。聴き映えしないとか、短い、とか、地味だとか、周りには色々言われたが、自分と自分が歌う歌との違和感にずっと苦しんでいた私は、もう何かの理由付けで選曲するのが嫌だった。自分が「歌おう」と思う歌を歌いたかったのだ。

「リュー」の練習を始めた頃、レコード店で輸入盤セールがあり、偶然、一枚のマリア・カラスのLPを見つけた。『椿姫』なら「あぁ、そはかの人か…花から花へ」ではなく「さようなら、過ぎ去りし日よ」という具合に、いろいろなオペラの一番目ではなく、二番目、三番目?に有名なアリアばかりを集めた、一風変わったレコードで、そのなかに「リュー」が収められていた。学生時代にアリア集を聴いて、独特の声に居心地の悪さを感じて以来、マリア・カラスは苦手だった。でも、まぁ「リュー」が入っているから聴いてみようか。そんな軽い気持ちでLPを買って帰った。

その夜、ステレオに針を落とし、部屋いっぱいに「リュー」が鳴り響いたときの衝撃…。ハンマーで頭を殴られたようだった。ひれ伏したいような気さえした。声がどうしたとか、好きだとか嫌いだとか、そんな言葉に出来るありとあらゆる理由を超えて、わずか2分半のアリアが、私の中の何かを引っくり返した。 「マリア・カラスは凄い!」



テレビでリューを語ってくれたオペラ研究家、岸純信先生の新刊が出た。
冒頭、マリア・カラスとレナータ・スコットの手に汗握るエピソードが紹介されている。

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「椿姫」「ノルマ」「ルチア」「カルメン」「ペレアスとメリザンド」そして、幻の「ラ・エスメラルダ」etc。数々の傑作オペラが、どのように生まれ、どのように存在し、どのように消えていったか。社会的背景、歴史的意味、ストーリー、音楽内容、作曲家の人となり、各々の作品にまつわる奇々怪々な人間ドラマ、悲喜こもごものエピソード…。熱く真摯な筆にぐんぐん惹きこまれ、心はいつのまにかオペラの迷宮へ…。ただのガイド本ではない。「オペラのすべて」への著者の愛が感じられる、まさに、情熱のオペラ文化論だ。

隠れたテーマとされている「19世紀のパリが世界中から音楽家を呼び寄せた理由」も、興味深い。スペインの偉大な音楽家達、アルベニスもグラナドスもファリャもトゥリーナも皆、「パリ無し」では存在しなかった。19世紀のパリとは?奇しくもこの八ヵ月、「スペインの音楽講座」を担当するなかで、私の心に強く留まったテーマだった。

あの時マリア・カラスのLPに出会ったのも偶然だった。今回テレビで「リュー秘話」を聞いたのも偶然だった。不思議。リューは時々、影のように、ふっと私のそばに現れ、何かシグナルを送ってくれる。

by Megumi_Tani | 2014-05-01 00:16 | 本の窓 | Comments(2)

Commented by masa at 2017-07-12 00:49 x
随分以前に一度コメントさせてもらって以来です。また、古い記事にすみません。

カラスのリュー、素晴らしいですよね。姫よりリューのほうが合ってたのでは?と思えるほどです。

リューといえば、昔ロス・アンヘレスの公開講座を聴きにイタリアまで行ったことがあり、その時の受講生の歌うリューのアリアをビクトリアがなぞるように、示すように結局ほぼ全部歌ったときの感動を思い出します。

YOUTUBEが登場以来、何度もビクトリアのリューを検索しましたが、出てこなかったです。彼女は長いキャリアで一度も歌わなかったのでしょうか?ビクトリアにはリューがとっても合う気がします。
Commented by Megumi_Tani at 2017-07-13 23:23
masaさん、こんにちは。
カラスのリューを聴いた時の衝撃は忘れられません。何かが一変した瞬間でした。

ビクトリア・デ・ロス・アンへレスの公開講座をご覧になったことがあるのですね!

彼女はとても思慮深く、自分の演奏レパートリーをチョイスしていたように思います。例えば、ショパンの歌曲のようなかなり珍しい作品を歌う一方で、ラフマニノフ、チャイコフスキーのようなロシア物は歌っていません。リューも、きっと何か考えるところがあったのでしょう。でも、、、聴いてみたかったですね!

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