『望郷』   

「マッサン」ブームで、書店には関連本があふれている。内容が濃く読みごたえのあるものから、あらまぁ…と、ちょっぴり呆れてしまうものまで多種多様。その出版のされ方そのものが興味深い。

そんななか、偶然、森瑤子著『望郷』という作品を見つけた。初版は1988年。今のブームのはるか前に、竹鶴正孝とリタの物語が書かれていたとは知らなかった。森瑤子自身もご主人が英国人だったから、国際結婚というテーマは、心惹かれるものだったのかもしれない。全体のテイストは、やはり、あの一時代流行した森瑤子の世界。スコットランド時代、正孝と出会う前のリタの人生、彼女と家族の関係等々、朝ドラになかった部分も描かれている。
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物語の終盤、余市に住む正孝とリタのところに、養子として威がやってくる。
『ニッカ・竹鶴政孝系図』
頭脳明晰、穏やかで心優しい青年の威は、ニッカの後継者として正孝を助け、戦時下、厳しい環境のなかで苦労するリタにそっと寄り添う。威の優しさに触れたリタが思わず号泣する場面は、胸にしみる。

ちょうどその辺りを読んでいた時、竹鶴威氏が亡くなられた。
『「マッサン」モデルの養子 竹鶴威氏死去』

余市のご縁で、威氏は、私のリサイタルを聴きに来てくださったことがある。とても美しくエレガントな奥様もご一緒だった。その後、パーティーでお目にかかると、「いやいや、貴女の声には驚いたよ。一体どこからあんな声がでるのかね?」と、目をクリクリさせて親しくお話くださった。とてもダンディで素敵なおじいちゃまだった。

年明けから、朝ドラの舞台は余市に移る。ほどなく、養子の男の子が登場するだろう。正孝氏からニッカを引き継ぎ、そのニッカが全国の注目を集め、いよいよそのドラマに威氏をモデルにした人物が登場する、まさにその直前に、威氏ご本人は静かに天に還られた。この世のめぐり会い、人の命は不思議だと思う。
《『ニッカウヰスキーと私』竹鶴威の回想録》

テレビに映る男の子をみて、「これ、私だよ」と、ちょっぴり照れる威氏のお声が聞こえるような気がする。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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by Megumi_Tani | 2014-12-28 00:07 | 本の窓 | Comments(0)

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