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いくつもの顔を持つ国

まだ6月ながら…猛暑お見舞い申し上げます。皆様、お元気にお過ごしでしょうか。


昨年のちょうど今頃、スペイン・ガリシア州在住の堀いつこさんと公開ミニ・ライブトークを開催しました。「サンティアゴ・デ・コンポステーラと結んで

この楽しいライブトークがきっかけで、スペイン歌曲の魅力を語る講座 が始まりました。

いつこさんは、ガリシア州公認ガイドとして大活躍。現地の情報を積極的に発信しています。下記サイトは、いつこさんによる「耳で聴くガリシア案内」。どなたでもお聴きになれます!

ガリシア州の観光・サンティアゴ巡礼・生活情報ポッドキャスト


さぁ、今月もSさんが講座の感想をアップしてくださいました。

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谷めぐみさんの魅惑のスペイン歌曲講座。今回は、フレデリック・モンポウである。知る人ぞ知る、大作曲家である。

ところで私はミニマルミュージックが好きである。だから、ジャズで、セロニアス・モンクとかアーマッド・ジャマル、若き日のマイルス・デイヴィスなんて大好きである。音の数が少ないことで、返って見えてくることがある。音と音の間に何かを感じる。あたかも日本の古典詩歌のようだ。そんなことで、若い頃(70年代の生意気な若造の頃)、クラシックではエリック・サティが大好きだった。何しろチッコリーニの演奏するサティ・ピアノ全曲集なんて持っていた。音楽ソースがLPからCDになった頃、初めて買ったCDが、サティ歌曲集だった。でも80年代になって、なぜかサティを急速に聴かなくなった。そしてモンポウの名を知ったのもこの頃である。

最初はモンポウの音楽をサティと似たようなものか、と思った。でも少し真面目に聴くと、まったくと言っていいほど別物であると解った。サティのミニマリズムはスタイルである。モンポウのそれは内的必然からの結果なのだ。サティのミニマリズムはスタイルだからいろんなものを込めることができる。エスプリ、皮肉、くすぐり、戯れ。これがサティの魅力であり欠点でもある。モンポウの音楽は、彼の精神のうごめきでしかない。だから時に魅力的で時に拒絶的、そして常に奥深い。サティは都市の音楽である。街路の響き、湿りを帯びた都会の空気、ミュージックホールの喧騒。モンポウは時にバルセロナの風景に目を遣る。カタルーニャの風土と親和的である。ピアノ曲集『歌と踊り』を聞けば、モンポウの内面とカタルーニャ民謡の間に敷居が存在しないことがわかる。『内なる印象』を聴けば、それがもっと解る。(モンポウのタイトルはどう訳せばいいのか難しいものが時々ある。このImpresiones Intimas とか、Música Calladaとか。intima callada も多様な意味を含んでいるからだ)モンポウの風景描写はまるで幻想的な絵画のようだ。不思議なことに色彩すら感じる。ピアノ曲種『街はずれsuburbis 』や『風景paisajes』など興趣あふれる美しさである。

モンポウの歌曲といえば、もう『夢の戦いCombatdel somní』を、そしてその第一曲『君の上にはただ花ばかり』を挙げないといけない。もっともっと世に知られていい、世界屈指の名曲である。こんなに心が痛む音楽が存在するとは。涙はもう出ず、ただ純粋な悲しみだけが存在する。『夢の戦い』を構成する5曲はどれも傑作だが、この『君の上には』は群を抜いている。もちろんそれだけではない。『子守唄』も『ベッケル歌曲集』も驚くほど美しい、まるで小さな宝石が煌めいているようだ。モンポウ編曲のカタルーニャ民謡『アメリアの遺言』は絶後の美しさであり、ああ、モンポウはもう根っこからカタランなのだなあ、と改めて認識させられる。

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谷さんが少し触れられていた、シャビエ・モンサルバジェである。実は少しずつは紹介されている。『5つの黒人の歌』はロス・アンヘレス版がずいぶん以前に出ている。ラテン・テイストのチャーミングな曲。こういうの好きだなあ、と思わずつぶやいてしまう。彼はモンポウと親しかったようで、『そう、モンポウへ si, a Mompou 』というオマージュ曲を書いている。ところがこの曲、モンポウへのオマージュでありながら、パスティシュにもなっている。モンポウ好きなら薄笑いを浮かべてしまうだろう。モンポウ自身はきっと大喜びしたと確信する。モンサルバジェはもっと聞かれてもいい作曲家だと思う。

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豊かな知識、繊細な音楽感覚、小粋な文章、そして何よりスペイン音楽を愛する心…これはもう ”感想” の域を越えた、珠玉の"音楽エッセイ" ですね。FBでは恒例、お手持ちのたくさんの貴重なCDもアップされています。Sさん、Muchas gracias!


ステレオタイプ的スペイン:太陽と青空とフラメンコとワインとパエリャと…はもちろん魅力的ですが、スペインという国の個性はそれだけではありません。シャイで、無口で、内省的なスペイン。天を見上げ、己の内奥を深く見つめるスペイン。いつこさんが紹介するガリシアとモンポウが愛してやまなかったカタルーニャ…。スペインにはいくつもの顔があります。そもそも公用語だけでも、カスティーリャ語(スペイン語)、カタルーニャ語、ガリシア語、バスク語と、4つもあるのです。現代の世界的キーワードのひとつ「多様性」。もしかするとスペインは、多様性をいち早く実現した国、あるいは、実現するべく大奮闘してきた国なのかもしれません。


Sさんの文章にあるカタルーニャ民謡「アメリアの遺言」を基にしたモンポウのピアノ曲はこちらです。毒入りのナデシコの花で継母に殺される、アメリア姫の悲しいお話。



by Megumi_Tani | 2022-06-28 23:29 | 講座/セミナー

スペイン歌曲のスペシャリスト♪谷めぐみのブログです


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