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七夕とロスバゲ

7月7日七夕。この日が来ると必ず思い出すことがある。どこぞの恋しい彦星様のことではない。バルセロナ留学から帰国した、その日が7月7日だった。あぁ久しぶりの日本!と感動したから思い出すわけでもない。成田に着くと、バルセロナで預けた荷物が消えていたのだ。まさかのロスバゲ…。「出て来ないかもしれません」カウンターの女性はこともなげに言った。

バルセロナにいる間に楽譜をたくさん買い込んだ。今のようにインターネットで検索&購入などできない時代。当時日本からスペインへの注文は甚だ心もとなかった。現地で楽譜を手に入れることは最重要ミッションのひとつ。買い集めた大量の楽譜を箱に詰め込み、出発前、バルセロナから日本に発送した。しかしスペインと日本を行き来する荷物はしょっちゅう行方不明になる。念のため、数ある楽譜のなかでも絶対に無くなっては困るものは手荷物で持ち帰ることにした。マエストロ・モンポウご本人にサインをいただいた『夢のたたかい』、グラナドスの末娘ナタリアさんにサインをいただいた『昔風の粋な歌曲集』、「鳥の歌」が入った『カタルーニャ民謡集』、先生のお手伝いをして完成させた『日本民謡集』…。あえて手荷物にした、その大切な楽譜が消えた。

「調べますが、分かるまでに数日かかります」とのこと。私は帰省をとり止め、東京で待機することにした。祈るような、まさに祈るような思い。心はまだ完全にバルセロナ、しかし身は炎天下の東京・渋谷。Tシャツにジーンズ、手元にあるのはショルダーバッグだけ。そして、あの、あの大切な楽譜が無くなった…。現実を受け止めきれず、何だかポカンとした記憶がある。

待つこと一週間。空港から連絡が入った。荷物が出て来た、今、成田にある、と言う。「宅配便でお送りすることもできます」と言われたが、とんでもない!「今から取りに行きます!」と、即、答えた。もう誰の手に委ねることも恐ろしい。大切な楽譜をこの手に取り戻さなければ!

かくして成田で再会した私のmaleta - スーツケース。目印「MEGUMI」の文字も間違いない。案の定、鍵にはこじ開けられた形跡がある。おそるおそるスーツケース本体を開けてみると…中身はすべて無事だった!!モンポウの楽譜もグラナドスの楽譜も何事も無かったかのように収まっている。音楽と無関係の人間にとって、楽譜は、意味不明な記号だらけの大型本にすぎなかった、ということか。

ベルリンの壁崩壊前、まだソ連の時代の航空会社。モスクワでの乗り換えはかなりスリリング、というよりルーズ。機内食の怪しいキャビア、お肉はゴムかと思うほど硬かった。私を含め20名ほどの荷物がモスクワ空港の隅っこに放られていたそうだ。「放られていてよかったです。もしも東欧圏行きの便に積まれていたら、戻ってきません」と、成田空港の担当者が言っていた。ハァ…。

その楽譜たちが、長い年月、歌うことを支えてくれた。今、この文章を書いていてもゾッとする。ホントにあの時、戻ってきてくれてよかったなぁ。。。

ご来聴をお待ちしています♪


ナタリア・グラナドスさんご夫妻にサインをいただいた楽譜
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by Megumi_Tani | 2023-07-09 23:16 | スペイン歌曲

スペイン歌曲のスペシャリスト♪谷めぐみのブログです


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