初めてリサイタルに来てくださったお客様とお話する機会があった。銀髪が美しいとてもエレガントなおばあちゃま。コロナの間ずっと引き籠っていた。鬱々していたら、知り合いの方が私のリサイタルに誘ってくれた。クラシック音楽の演奏会は初めてだけれど、勇気を出して参加してみたら…「外国語の歌にあんなに感動するなんて!」「ちっとも堅苦しくない雰囲気。楽しかった!」「元気と勇気をいただきました!」と、目を輝かせ、次々と感想を述べられる。あぁよかったなぁ…と、私も嬉しくなった。
「ところで、つかぬことを伺いますが…」と、おばあちゃま。「あのボリュームと響きはナマですか?それともマイクですか?」「……」
数年前の出来事が蘇った。その年のリサイタル終了後、同じ趣旨のことを仰った方がいたのだ。
Hakuju Hallの響きは素晴らしい。お客様はもちろん、舞台上の歌い手とピアニストも幸せにしてくれる。が、その素晴らしさゆえ、「まさかナマでこんなに響くはずはない」と、秘かに思われる方がいるらしい。録音設備として、天井からマイクが吊るされている。あのマイクを、録音用ではなく、拡声用と勘違いされるのだろうか。。。
©藤本史昭 ある年、リサイタル本番中にそのことを思い出し、トークの中で「ナマですよ」と軽く言ってみたことがある。会場中大笑い、大ウケだった。しかしもしかすると、「そうだったのか…」と秘かに思われた方がいたかもしれない。今回も事前に同様の危惧が頭をよぎった。しかし、毎回、毎回、ナマですよ、と念を押すのはいかにもイヤらしい。今回はこの件には触れずに終えた。
先述のおばあちゃまに「マイクは一切使っていません。全部ナマだったんですよ」とお答えすると、「あらぁ!」と絶句。目をまん丸にして驚かれていた。
スペイン歌曲の魅力は、その人間味、懐の深さだ。モンポウ作品のように内なる緻密な作品からエル・ビートのようなイケイケの歌まで多種彩々、実にバラエティー豊か。普段クラシック音楽とは無縁の方から、オペラ三昧、演奏会三昧、クラシック音楽通の方まで、幅広くお楽しみいただける。誰でも思わず共感してしまう ”何か” があるからこそ、どなたでもお誘いできる。限られた人だけの限られた楽しみにはしたくない。だから、クラシックの演奏会初めての方!大歓迎!ぜひご来聴ください!なのだ。で、その上で、、、さて、マイク疑惑?はどうしたものか…。
9月が終わる。とりあえず今日のところはそっと小声で囁いておきます。
「プログラム第1曲目から締めの「鳥の歌」まで、歌もピアノも、いつも全部ナマです♪」
©藤本史昭