日本では大人気のワインやお料理、フラメンコに較べて、スペイン歌曲はいささか影が薄い。いや、日本だけの話ではない。スペイン人が皆、スペイン歌曲に精通しているかといえば、そんなことはない。今日たまたま出先でお目にかかったセニョールは、私が「グラナドスやファリャやモンポウの歌曲を歌う」と言ったら、目を丸くしていた。
スペインには色々な歌がある。芸術歌曲、サルスエラ、各地の民謡、街角に流れる小唄、クリスマスの歌、祈りの歌、恋の歌、別れの歌、子守り歌、踊りの歌etc。そして、スペイン歌曲には良い意味での大衆性がある。芸術性と大衆性を両立させれば、声楽の専門家にも、普段はクラシック音楽にご縁の無い方々にも、広くその魅力をお伝えできるのではないか。。。「歌いたい」で始まったスペイン歌曲が、いつの頃からか、「伝えたい」ものになった。
初めてリサイタルのパンフレットをご覧になる方の大半は、ほぼすべての演奏曲目をご存じない。はぁ…。知らない曲だらけの、しかも外国語の歌しかない演奏会ねぇ…。ということになる。そのお気持ちはよ~く分かる。しかし、もしもその中のひとつでも曲名を知っていれば興味が湧くのではないか?リピーターの方は、1曲でも聴いたことがある曲があれば親しみが増すのではないか?その願いをこめて、プログラムには、お客様がご存知の曲を適宜、繰り返し、取り入れる。繰り返し、と言っても、音楽は生き物。その日その時だけのその歌を共有することは、まさにライブの醍醐味だ。「あ、この歌、いいですよね!」「この曲、前に聴いた時、とても好きでした」こんな気持ちの積み重ねを通して、スペイン歌曲をより身近に感じていただければ、と、思う。
お客様のほとんどはスペイン語をご存知ない。言葉の壁を越えて少しでも親しく楽しんでいただくために、歌詞大意をお渡しする。しかし薄暗い客席で細かい文字をゆっくり読むことは難しい。第一、そんなものを読んでいては演奏に集中できない。そこでMCで喋ることになる。私は、かなり喋る(笑)「なるほど。そういう歌なのか…」客席から、そんなお客様の心の声が聞こえてくるとホッとする。
「
音楽講座を受けたので作品の背景がよく分かりました」「
毎日メディアカフェのおかげで感動がグッと深まりました」こんな感想はとてもありがたい。ITの時代、
HP、
facebook等で情報を得てくださる方もいる。今回HP経由で、
マドリードからエールが届いたのには驚いた。
「ある外国を好きになるということは、永遠の片思いのようなものですね」と仰った方がいた。言い得て妙。大好きだからこそ、相手をより知り、より良い形で伝えたいと願う。しかし、我ら外国人。知っても、知っても、知り尽くすことなどありえない。永遠の片思いなればこそ、永遠の謙虚さを大切にしたい。
ああだこうだ、はたまた、ああでもないこうでもないと、悪戦苦闘。そういえば、、、と、今になって気が付いた。「
スペイン歌曲って何ですか?」半ばおなじみ、半ば恒例になっていたこの問いを、今回のリサイタル広報中、一度も投げかけられることがなかった…。これは、嬉しい。